磁抵抗開放用意よし!」
 真鍮《しんちゅう》の喇叭《ラッパ》口の中に、思いきり呶鳴《どな》りこんだ。
「開放徐々に始め!」
 推進機に歯車結合《ギーア・カップリング》された電動機の呻りは、次第に高くなって行った。艦体が、明かに、グッと下方に傾斜したのが判った。深度計の指針が静かに右方へ廻りだした。
「十メートル、十五メートル、……」
 深度計の指針は、それでもまだ、グッグッと同じ方向に傾いて行った。
 艦底[#「艦底」は底本では「海底」]の海水出入孔《かいすいしゅつにゅうこう》は、全開のまま、ドンドンと海水を艦内に呑みこんでいるらしかった。
 このままでは海底にドシンと衝突《ぶつ》かるばかりだと思われた。清二は、界磁抵抗のハンドルを、全開の位置に保持したまま、早く元への命令が来ればよいがと、気を焦《あ》せらせたのだった。疑いもなく、唯今の状態は、全速力沈降《ぜんそくりょくちんこう》を続けているものであって、海岸を十キロメートルと出ていないところで、こんな操作をするのは、前代未聞《ぜんだいみもん》のことだった。
「どこかで吾が潜水艦の行動を監視している者があるのかも知れない」
 清二は不
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