「何処へ行くのであろう」
 清二は推進機に近い電動機室で、界磁抵抗器《かいじていこうき》のハンドルを握りしめて、出航命令が出た以後の、腑《ふ》におちないさまざまの事項について不審をうった。
「どうやら、いつもの演習ではないようだ」
 二等機関兵である清二には、何の事情も判っていなかった。彼は上官の命令を守るについて不服はなかったけれど、一《ひ》と言《こと》でもよいから、出動方面を教えてもらいたかった。水牛《すいぎゅう》のように大きな図体《ずうたい》をもった艦長の胸のなかを、一センチほど、截《き》りひらいてみたかった。
 舳手《じくしゅ》のところへは、なにか頻々《ひんぴん》と、命令が下されているのがエンジンの響きの間から聞こえたが、何《ど》んな種類の命令だか判らなかった。
 だが、間もなくジーゼル・エンジンがぴたりと停って、清二の居る電動機室が急に、忙《せわ》しくなった。
「界磁抵抗開放用意!」
 伝声管《パイプ》から、伝令の太い声が、聞こえた。
 清二は、開閉器の一つをグッと押し、抵抗器の丸いハンドルを握った。そしていつでも廻されるように両肘《りょうひじ》を左右一杯に開いた。
「界
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