。直《す》ぐに救援隊を御派遣ねがいたい」
「莫迦《ばか》な奴じゃ」提督は、いよいよ苦虫《にがむし》を噛んだような顔をした。演習ではあるまいし、救援が出来るものか。それにしても潜水艦とは、可笑《おか》しいな、敵の潜水艦は、先刻からみているが始めの位置を動いたのは、一隻《いっせき》も居ない筈《はず》じゃが……
 提督が、不審顔で、頤《あご》に手を当てた其の瞬間だった。
 めり、めり、めりッ――
 司令塔が、馬の背から振り落されでもしたかのように、ひどい傾斜と共に、ガラガラと器物が転落を始めた。
「ど、どうしたッ」提督は、思わず椅子の上から突立って、サッと顔色を変えた。
「日本の潜水艦だッ」
「もう二分と経たない間に沈んでしまうぞ」同室の将校達は、奇声《きせい》をあげて、非常梯子の滑《すべ》り金棒《かなぼう》に飛びつくと吾勝《われが》ちに、第一|甲板《かんぱん》の方を目懸けて、降りて行った。
 提督は一人残されてしまった。高声器が間に合う筈だったのに、今日に限って、ウンともスンとも鳴らない。彼は覚悟《かくご》を極《き》めて、安全|硝子《ガラス》の貼ってある窓の傍に駈けつけた。そのとき下から、
前へ 次へ
全224ページ中203ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング