なに、臨時ニュースだって?」
「背後《うしろ》の受信機のスイッチを入れて下さい。また上海《シャンハイ》事変ですって!」
「また上海事変だって?」
 長造は、床の間に置いてある高声器《こうせいき》のプラグを入れた。ブーンと唸って、高声器に、電気がきた。
「では、もう一度、くりかえして申し上げます」高声器の中から、杉内アナウンサーの声が聞こえた。その声は、隠しきれない程、興奮の慄《ふる》えを帯びていたのだった。
「本日午後五時半、上海市の共同|租界《そかい》内で、我が滝本総領事《たきもとそうりょうじ》が○国人の一団により、惨殺《ざんさつ》されましたお話であります。
 兼ねて租界管理に関し、日○両国間に協議を開いて居りましたが、我が滝本総領事は、常に正々堂々の論陣を張って、○国の暴論を圧迫していましたところ、其の新規約も八分通り片がついた今日になって、会議から帰途《きと》についた総領事の自動車が、議場の門から二百|米《メートル》ほど行ったところで物蔭にひそんでいた○国人約十名よりなる一団に襲撃され、軽機関銃を窓越しに乱射され、総領事は全身蜂の巣のように弾丸を打ちこまれ、朱《あけ》に染《そ》ま
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