碗を出した。
「じゃ、お汁をあげましょう」お妻はそう云って、姉娘の方に目くばせした。「みどり、ちょっと、お勝手でお汁のお鍋を温《あたた》めといで」
「はい」
みどりは勝手に立った。
ミツ坊は、いつの間にか、喜代子の胸に乳房を銜《くわ》えたまま、スウスウと大きな鼾《いびき》をかいて睡っていた。
「可愛いいもんだな」長造が膳越《ぜんご》しに、お人形のような孫の寝顔を覗《のぞ》きこんだ。
「今日は、皆の引張《ひっぱ》り凧《だこ》になったから、疲れたんですよ。まあこの可愛いいアンヨは」
お妻が、ミツ子の足首を軽く撫でながら、口の中にも入れたそうにした。
「ミツ坊が産れたんで、家の中は倍も賑《にぎや》かになったようだね」
長造は上々の御機嫌で、また盃を口のあたりへ運ぶのだった。一家の誰の眼も、にこやかに耀《かがや》き、床の間に投げ入れた、八重桜《やえざくら》が重たげな蕾《つぼみ》を、静かに解いていた。まことに和《なご》やかな春の宵《よい》だった。
そこへ絹ずれの音も高く、姉娘のみどりが飛びこんで来たのだった。
「大変ですよ、お父さま。ラジオが、今、臨時ニュースをやっていますって!」
「
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