《このへん》に落ちたら、どうでしょう」嫂《あによめ》の喜代子が、恐怖派に入った。
「きっと、爆弾の音を聞いただけで、気が遠くなっちまうでしょうよ。おお、そんなことのないように」みどりが、身体を震《ふる》わせて叫んだ。
「大丈夫、戦争なんて起こりゃせん」黄一郎が断乎《だんこ》として言い放った。
「ほんとかい」今まで黙っていた母親が口を出した。「あたしゃ清二《せいじ》の様子が、気になってしようがないのだよ」
「清《せい》兄さんはネ、お母さん」素六《そろく》が呼びかけた。「この前うちへ帰って来たとき、また近く戦争があるんだと云ってたよ」
「おや、清二がそう云ったかい。あの子は、演習に行くと云ってきたが、もしや……」
「お母さん、もう戦争なんて、ありませんよ。理窟《りくつ》から云ったって、日本は戦争をしない方が勝ちです。それが世界の動きなんだから」
「戦争があると、商売は、ちと、ましになるんだがなァ。このままじゃ、商人はあがったりだ」
「なんだか、折角《せっかく》のお誕生日が、戦争座談会のようになっちまったね。さア私はお酒をおつもりにして、赤い御飯をよそって下さい」
 黄一郎が、盃を伏せて、茶
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