ちろう》が、横合《よこあい》から口を出した。
弦三は、黙って点《うなず》いた。
「瓦斯マスクなんてゴムで作ってあるから永く置いてあると、ボロボロになって、いざというときに役に立たないんだぜ。どうせゴム商売で儲《もう》けようと云うんだったら、マスクよりも矢張《やは》りゴム靴の方がいいと思うね」
「儲けなんか、どうでもいいのです」弦三は恨《うら》めしそうに兄を見上げた。「いまに東京が空襲されたら大騒ぎになるから、市民いや日本国民のために、瓦斯マスクの研究が大事なんです」
「瓦斯マスクのことなんか、軍部に委《まか》しといたら、いいじゃないか。それに此後《このご》は戦争なんて無くなってゆくのが、人間の考えとしたら自然だと思うよ。聯盟だって、もう大丈夫しっかりしているよ。聯盟直属の制裁軍隊《せいさいぐんたい》さえあるんだからね」
「戦争なんて、野蛮だわ」紅子が叫んだ。
「でも万一、外国の爆撃機がとんできたら、恐ろしいわねエ」
と云ったのは姉娘のみどりだった。
「もう五年ほど前になりますけれど、上海《シャンハイ》事変の活動で、爆弾の跡を見ましたけれど、随分おそろしいものですねエ。あんなのが此辺
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