ろざし》は有難い」と長造は一つペコンと頭を下げたが、それは申訳《もうしわけ》に過ぎないようだった。「だが、この東京市に敵国の飛行機なんて、飛んで来やしないよ。心配しなさんな」
「そんなことありませんよ。東京市位、空中襲撃をしやすいところは無いんですよ。僕は雑誌で読んだこともあるし、軍人さんの講話《こうわ》も聴いた――」
「大丈夫だよ、お前」長造は、呑みこみ顔《がお》に云った。「日本の陸軍にも海軍にも飛行機が、ドッサリあるよ。それに俺等《わしら》が献納《けんのう》した愛国号も百台ほどあるしサ、そこへもってきて、日本の軍人は強いぞ、天子様《てんしさま》のいらっしゃるこの東京へなんぞ、一歩だって敵の飛行機を近付けるものか。お前なんぞ、知るまいが、軍備なんて巧く出来ているんだ」
「空の固めは出来てないんだって、その軍人さんが云いましたよ」
「莫迦《ばか》、そんなことを大きな声で云うと、お巡《まわ》りさんに叱られるぞ。お前なんか、そんな余計な心配なぞしないで、それよか工場がひけたら、ちと早く帰って来て、お湯にでも入りなさい」
「弦ちゃん、お前は、こんなことで毎日帰りが遅かったのかい」黄一郎《きい
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