玩具《がんぐ》が流行《はや》りだしたってえ訳かい」
「玩具《おもちゃ》じゃありませんよ、本物です。お父さん使って下さい。顔にあてるのはこうするのです」
 一座が呆然《ぼうぜん》としている裡《うち》に、弦三は大得意で立ちあがった。
「いや、もう沢山、もう沢山」長造は、そのお面みたいなものを、弦三が本気で被《かぶ》せそうな様子を見てとって、尻込《しりご》みしたのだった。「わしはもういいから、素六にでも呉れてやれ、あいつ、野球のマスクが欲しいってねだっていたようだから丁度いい」
「野球のマスクと違いますよ、お父さん」弦三は躍起《やっき》になって抗弁《こうべん》したのだった。「いまに日本が外国と戦争するようになるとこの瓦斯《ガス》マスクが、是非必要になるんです。東京市なんか、敵国の爆撃機が飛んできて、たった五|噸《トン》の爆弾を墜《おと》せば、それでもう、大震災のときのような焼土《しょうど》になるんです。そのとき敵の飛行機は、きっと毒瓦斯を投げつけてゆきます。この瓦斯マスクの無い人は、非常に危険です。お父さんは、家で一番大事な人だから第一番に、これを作ってあげたんですよ」
「うん、その志《ここ
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