よ。夜店《よみせ》でバナナを買ってきたんでしょう」
「なに、バナナか?」父親は手を引込めた。
「バナナじゃありませんよ、僕が工場で拵《こしら》えてきたんですよ」
「僕知ってらあ。きっとゴム靴だよ。もうせん、僕に拵えてくれたねえ、弦《げん》兄さん」
「ゴム靴だって?」父親は顔を硬《こわ》ばらせた「鼻緒屋《はなおや》の倅《せがれ》が、ゴム靴を作る時代になったか」
「黙って開けてごらんなさい、お父さんは、きっと驚くでしょうよ」
新聞紙の包みは、嫂《あによめ》の手から隣へ廻って、父親の膝の上へ順おくりに送られた。
長造が、新聞紙をバリバリあける手許《てもと》に、一座の瞳《ひとみ》は聚《あつま》った。二重三重《ふたえみえ》の包み紙の下から、やっと引出されたのは、ゴムと金具《かなぐ》とで出来たお面《めん》のようなものだった。
「こりゃ、お前が造ったのかい、一体、これは何だい」父親は狐《きつね》に鼻を摘《つま》まれたような顔を弦三の方に向けた。
「それは、瓦斯《ガス》マスクですよ。毒瓦斯|除《よ》けに使うマスクなんです」
「瓦斯マスク! ほほう、えらいものを拵《こしら》えたものだね。近頃、こんな
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