兄らしい心配をして、引きよせて意見をしようという心らしかった。
「このごろ、ずっと忙《いそが》しいんですよ、兄さん」弦三は、はっきり断《ことわ》った。
「なにが、そんなに忙しいんだい」父親が、痛いところへ触《さわ》られたように喚《わめ》いた。
「工場が忙がしいんです」
「工場が忙がしい? お前の仲間に訊《き》いたら、一向《いっこう》忙しくないって云ってたぜ」
「お父さん、僕だけ、忙しいことをやっているんですよ」
「あなた、もういいじゃありませんか、お誕生日ですから、ほかの事を仰有《おっしゃ》いよ」母親が危険とみて口を出した。
「うん、大丈夫だよ」父親は強《し》いて笑顔をつくった。セメントのように硬い笑顔《わらいがお》だった。
「今夜は遅くなったとは思ったんですが、今夜中に仕上げて、お父さんのお誕生祝にあげようと思って、ホラこれ! これをあげますよ」そう云って弦三は、新聞紙包みを、父親の方へヌッと差出した。
「なに、誕生祝だって」長造はすっかり面喰《めんくら》ってしまった。
「それを呉れるというのかい。ほほう」
「まア、きたないわ」と紅子《べにこ》が喚《わめ》いた。「お膳の下から出すもの
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