は、まるでおもちゃの軍艦の形に見えた。
「おい、あのなに[#「なに」に傍点]は……」と長造はお妻を呼び止めた。
「弦三《げんぞう》はもう帰っているかい」
「弦三は、アノまだですが、今朝よく云っときましたから、もう直ぐ帰ってくるに違いありませんよ」
「あいつ近頃、ちと帰りが遅すぎるぜ、お妻。もうそろそろ危い年頃だ」
「いえ、会社の仕事が忙しいって、云ってましたよ」
「会社の仕事が? なーに、どうだか判ったもんじゃないよ、この不景気にゴム工場《こうば》だって同じ『ふ』の字さ。素六《そろく》なんざ、お前が散々《さんざん》甘やかせていなさるようだが、今の中学生時代からしっかりしつけをして置かねえと、あとで後悔《こうかい》するよ」
「まア、今日はお小言《こごと》デーなのね、おじいさん。ちと外《ほか》のことでも言いなすったらどう? 貴郎《あなた》の五十回目のお誕生日じゃありませんか」
「五十回目じゃないよ、四十九回目だよ」
「五十回目ですよ。おじいさん、五十になるとお年齢《とし》忘れですか、ホホホホ」
「てめえの頭脳《あたま》の悪いのを棚《たな》にあげて笑ってやがる。いいかいおぎゃあと、生れた日に
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