じょ》へ行って、老人や子供の世話をするわ」
「僕は、どうなるんだ」
「あんたは、外に立っていて、ヨボヨボのお婆さんなんかが、逃げ遅れていたら、背中の上にのせて、避難所へ連れて来る役を、しなさいネ」
「君が働いている避難所へなら、何十人でも何百人でも、爺さん婆さんを拾ってゆくよ」
「そして、日本が戦争に勝って、そのとき幸運にも、あたし達が生きていたら……」
「生きていたら……」
「そのときは、大威張りで、あんたの所へ行くわ」
「ふうーん」
「あんた、約束して呉れる?」
「条件がいいから、約束すらァ」
「まア、いやな人ね」
暗闇《くらやみ》の中の男女の声は、パタリとしなくなった。
暗闇の千葉街道を、驀地《まっしぐら》に、疾走しているのは、世田《せた》ヶ|谷《や》の自動車大隊だった。囂々《ごうごう》たる轍《わだち》の響は並木をゆすり、ヘッド・ライトの前に、濛々《もうもう》たる土煙をあげていた。
「もう七時を廻ったぞ、山中中尉」
そういったのは、先導車《せんどうしゃ》の中に、夜光時計の文字盤を探っている将校の一人だった。
「那須大尉どのは、この車で、先行されますか」隣りにいた将校が、尋
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