、失業者で、あたしはウェイトレス。こんな騒ぎになったればこそ、あんたも大威張《おおいば》りで、物を拾って喰べられるしサ……」
「オイオイ」
「あたしも、お店が焼けちゃったから、出勤しないであんたの傍にいられるしサ、嬉しいには、違いないけれど……」
「嬉しいところで、いいじゃないか」
「でも、あんたには、愛国心が、見られないのが、残念よ」
「弱ったな。僕だって、愛国心に、燃えているんだぞ」
「アクロン号が、来るというから、あたし、考えたのよ」
「何を、考えたのだい」
「日本が興《おこ》るか亡《ほろ》ぶかという非常時に、お飯事《ままごと》みたいな同棲生活《どうせいせいかつ》に、酔っている場合じゃないと、ね」
「同棲生活※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 同棲まで、まだ行ってないよ。六時間前にバラックを建てて、入ったばかりじゃないか」
「あたし達、若いものは、こんな場合には、お国のためにウンと働かなきゃ、日本人としてすまないんだわ」
「そりゃ、僕だって、働いても、いいよ」
「じゃ、こうしない」
「ウン」
「あたしは、サービスに心得《こころえ》があるから、これから、毒瓦斯避難所《どくガスひなん
前へ
次へ
全224ページ中158ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング