で、バラバラと撃っちまえば、いいじゃないの」
「そこにぬかりが、あるものか。あっちには、有力な戦闘機が飛行船の上に飛んでいて、近づく飛行機を射落してしまう」
「まア、くやしい。それじゃ、敵の飛行船をみすみす通してしまうことになるじゃありませんか」
「だから、東京市民は注意をしろ、とサ」
「オーさんは、いやに、米国空軍の肩を持つのネ。怪しいわ」
「おいおい、人聞きの悪いことを云うなよ。これでも、愛国者だよ」
「どうだか判りゃしない。あたし、明日になったら、お別れするわ」
「じょ冗談《じょうだん》、云うな。折角《せっかく》、この機会に、世帯《しょたい》を持ったのじゃないか」
「世帯って、なにが世帯さア。こんな、焼《やけ》トタンの急造《きゅうぞう》バラックにさ。欠《か》けた茶碗が二つに、半分割れた土釜《どがま》が一つ、たったそれっきり、あんたも、あたしも、着たきりじゃないの」
「まだ有るぞ。ほらラジオ受信機」
「……」
「半焼けの米櫃《こめびつ》、焼け米、そこらを掘ると、焼《や》け卵子《たまご》が出てくる筈だ。みんなこの際、立派な食料品だ」
「そりゃ、お別れしたくはないのよ、本当は。あんたは
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