かだい》から、拳銃の入ったサックを下ろして、胸に、斜に懸けた。それから、鉄冑《てつかぶと》を被り直すと、同室の僚友に、軽く会釈をし、静かに扉《ドア》を開けて出て行った。


   闇《やみ》に蠢《うごめ》くもの


「おい、蘭子《らんこ》氏、えらいことになったぞ」
 暗闇の小屋の一隅から、若い男の声がした。
「吃驚《びっくり》させちゃ、いやーよ」
 手を伸ばすと、届くようなところで、やや鼻にかかった、甘ったるい少女の声がした。
「いよいよ、これァ、大変だ」
「オーさんたら。自分ばかりで、感心してないで、早く教えてよ」
「うん。もうすこしだ――」
 軈《やが》て、カチャカチャと、軽い音がした。若いオーさんという男が、頭から、受話器を外したのだった。
「いま放送局から、アナウンスがあったがね、アラスカ飛行聯隊と、飛行船隊とが、共同戦線を張って、とうとう、青森県の大湊要港《おおみなとようこう》を占領しちまったそうだぜ」
「あら、まア、あたし、どうしましょう」
「どうするテ、仕様がないじゃないか。相手は、強すぎるんだ」
「だって、青森県て、東京の地続きでしょう。アメリカの兵隊の足音が、響いてく
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