発見したのじゃ」
「彼は、第一に、閣下の偽物《ぎぶつ》が、司令部に頑張っていることを知りました。これは、わたくしも、既に気がついていたことだったので、成程《なるほど》と、信用が出来たのです」
「ほほう、君も、偽司令官を知っていたのかい」司令官は、意外な話に、驚いたのだった。
「それは閣下」湯河原中佐は、唾《つば》をグッと嚥《の》んだ。「帝都が空襲されるに当って、閣下が第一に、なさらなければならない或る重大な任務がおありだったのに、非常時が切迫しても、閣下は、お忘れのように見受けました。わたくしはそれを怪しく思いました」
「では若《も》しや……」司令官は、何に駭《おどろ》いたのか、その場に、直立不動の姿勢をとり、湯河原中佐の憐愍《れんびん》を求めるかのように見えた。
「閣下、御安心下さい」中佐は、語尾《ごび》を強めて云った。
「それは、閣下に代って、わたくしが遂行《すいこう》いたしました。閣下から信頼を受けてあの重大任務をおうちあけ願っていなかったら、わが国史上に、一大汚点を印するところでありました」
「それは、よかった――」
司令官は、沈痛な面持をして、遥かな地点に、陳謝と祈りを、捧
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