に》へ帰ったら、二三年は、東京へ顔を出しちゃ、危いぞ」
「もう、お降りになるの。いまお別れしたら、何時《いつ》お目に懸かれるか、判らないわネ」
「お互《たがい》に、どうなるか、判らない人生だ。帰ったら、お父さんや、子供を、大事にしろ」
「これでも、あたし、古い型《かた》の女よ。帰ったら、いいママになりますわ」
「それがいい」男爵は、運転手の方へ向いて停車を命じた。
「では、所長」と運転手は、降り立った男爵に声をかけた。「たしかに、御婦人を、茨城県《いばらぎけん》[#ルビの「いばらぎけん」はママ]磯崎《いそざき》まで、送りとどけて参ります」
「どうか、頼んだぞ」
「それじゃ、サヨナラ。あたしの、男爵さま――では無かった、帆村荘六《ほむらそうろく》様」
「御健在《ごけんざい》に――」
青年は、小さくなってゆく、自動車の方に手を振った。「男爵」というのは、無論、綽名《あだな》であって、G《ゲー》・P《ペー》・U《ウー》の日本派遣隊の集合所と睨《にら》まれるキャバレ・イーグルに於ける不良仲間《ふりょうなかま》としての呼び名だった。そこで、彼は巧みに、狼《ウルフ》を隊長とする彼《か》の一団に近
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