《テーブル》へ、男爵を引っぱって行った。
「今日は、ゆっくりして行ってネ。あたしも是非、あんたに、相談したいことがあるのよ」
「それよか、手紙を、早く出せったら」
「まあ、ひどい人。あたしのことより、あんなビール樽の手紙がいいなんて、あたし、失礼しちゃうわ」そういって、彼女は、帯の間から真白い四角な封筒をとりだした。
「ほう、ビール樽からの手紙じゃなくて、これは『狼《ウルフ》』からのだな」
 狼《ウルフ》といい、ビール樽というところを見ると、男爵というのも、大分怪しいことだった。青年のキリリとした伊達《だて》姿が「男爵」という通称を与えたのかも、知れなかった。
「おい、真弓。手紙を読む間、あっちへいっとれ」男爵は、真弓の頬っぺたを、指の先で、ちょいと、つついた。
「うん――」真弓は、だしぬけに、男爵の首ッ玉に噛《かじ》りつくと、呀《あ》ッという間に、チュッと音をさせて、接吻《せっぷん》を盗んだ。
「莫迦《ばか》――」男爵は、満更《まんざら》でもない様子で、ニヤリと笑って、真弓の逃げてゆくあとを、見送った。
 それから男爵は、急いで、入口のカーテンを引いた。次に彼は、驚くべき敏捷《びんし
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