らかというと、不良がかった色彩を帯びていることも、否《いな》めなかったのである。
彼《か》の青年は、何の躊躇《ちゅうちょ》もなく、イーグルの入口をくぐった。
支配人が、大袈裟《おおげさ》に、さも駭《おどろ》いた恰好をすると、急いで近よった。
「まあ、ようこそ。男爵《だんしゃく》さま。――」
支配人は、恭々《うやうや》しく手を出して、青年の帽子を受けとった。
「誰か、来てないか」
「どなたも、見えませんです。なにしろ、この騒動の中ですからナ」
「手紙も、来てないかしら」
「手紙といえば、真弓《まゆみ》が、なにかビール樽《だる》から、ことづかったようでしたが……」
「そうか。真弓を呼べ」
支配人は、奥の方を向いて、
「真弓さアーん」
と声をかけた。
「はーイ」
と返事がして、派手な訪問着を着たウェイトレスがパタパタと駈けてきた。
「まあ、男爵。よく来たわネ」
「てめぃ、ビール樽《だる》から、なんか、ことづかったろうが」男爵と呼ばれる青年は、姿に似ぬ下等《かとう》な言葉を、はいた。
「ええ、ことづかってよ。こっちへ、いらっしゃいよォ」
真弓は、広間の片隅の、函《ボックス》・卓子
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