ついていたのでもあろうか、別に咎《とが》められる風もなかった。彼は、往来を、急ぐでもなく、ブラブラと歩き出した。大通りに出てみると、避難民や、軍隊が、土煙をあげて、はげしく往来していた。
青年は、駿河台下《するがだいした》の方へ、下って行った。そこは、学生の多い神田の、目貫《めぬき》の場所であって、書店や、ミルクホールや、喫茶店や、カフェや、麻雀《マージャン》倶楽部や、活動館や、雑貨店や、ダンスホールが、軒に軒を重ねあわせて並んでいた。流石《さすが》に、今日は、店を閉めているところが、少くはなかったが、中には、東京人特有の度胸太《どきょうふと》さで、半ば犠牲的に、避難民のために、便宜《べんぎ》をはかっている家も、見うけられた。
キャバレ・イーグルも、そのうちの一軒だった。
このキャバレ・イーグルという家は、カフェとレビュー館との、中間みたいな家だった。お酒を呑んだり、チキンの皿を抱えながら、美しい踊り子の舞踊が見られたり、そうかと思うと、お客たちが、てんでに席を立って、ダンスをしたりすることが出来た。随《したが》って、ここの客は、若い婦人と、三十過ぎの男とが多かった。そして、どち
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