い、皆の衆。お前ら駄目じゃねえか」と怒鳴《どな》った。
その四五人のうちの一人が、グッとこっちを睨《にら》みかえしたのを見ると、彼は、周章《あわ》てて入口の扉のうちに、姿を隠した。その頓間《とんま》男も、どこかで、見た男だった。
それも道理だった。頤髯男は、ここの研究所長の戸波俊二《となみしゅんじ》博士。大八車のように大きい男は、山名山太郎《やまなやまたろう》といって、印半纏《しるしばんてん》のよく似合う、郊外の鍛冶屋《かじや》さんで、この二人は、帝都爆撃の夜、新宿の暗がりの中で知合いになり、助け助けられつつ、この駿河台の研究所まで辿《たど》りついたのが縁《えん》で、唯今では、鍛冶屋の山さん、変じて、博士の用心棒となり、無頓著《むとんちゃく》な博士の身辺護衛《しんぺんごえい》の任にあたっているのだった。戸波博士は、いま軍部の依頼によって、或る秘密研究に従事している国宝のように尊《とうと》い学者だった。さてこそ、門前には、便衣《べんい》に身体を包んだ憲兵隊《けんぺいたい》が、それとなく、厳重な警戒をしている有様であった。
戸波研究所を立出でた青年は、私服《しふく》憲兵との間に、話が
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