防空問題に、目醒《めざ》めたことだろうが、こんなになっては、もう既に遅い。彼等は、飛行機の飛んでくるお祭りさわぎの防空演習は、大好きだったが、防毒演習とか、避難演習のように、地味《じみ》なことは、嫌いだった。満洲事変や上海《シャンハイ》事変の、真唯中《まっただなか》こそ、高射砲や、愛国号の献金をしたが、半歳《はんとし》、一年と、月日が経つに従って、興奮から醒《さ》めてきた。帝都の防空施設は、不徹底のままに、抛《ほう》り出されてあった。雨が降れば、人間は傘をさして、濡れるのを防ぐ。が、帝都には、爆弾の雨が降ってこようというのに、これを遮《さえぎ》る雨具《あまぐ》一つ、備わっていないのだ……」湯河原中佐は、慨然《がいぜん》として、腕を拱《こまね》いた。
「そう云えば、防空演習にしても、遺憾《いかん》な点が多かったですね。東京の小さい区だけの、防空演習だって、なかなか、やるというところまで漕《こ》ぎつけるのに骨が折れた。市川《いちかわ》とか、桐生《きりゅう》とか、前橋とかいう小さい町までもが、苦しい町費《ちょうひ》をさいて、一と通りは、防空演習をやっているのに、大東京という帝都が、纏《まとま
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