を左へ曲げ、隅田川《すみだがわ》に沿《そ》って、本所《ほんじょ》浅草《あさくさ》の上空へやれ。高度は、もっと下げられぬか」そう云ったのは、警備司令部付の、塩原参謀《しおばらさんぼう》だった。
「はいッ、では、もう二百メートル、下降《かこう》いたしましょう」
 浅川曹長は、左手を頭上に高くあげると、僚機の注目を促《うなが》し、それから腕を左水平《ひだりすいへい》に倒すと、手首を二三度振った。途端《とたん》に、彼の乗っている司令機は、下《さ》げ舵《かじ》をとって、静かに機首を左へ廻したのだった。あとに随《したが》う二機も、グッと旋回《せんかい》を始めたらしく、プロペラが重苦しい呻《うな》り声をあげているのが、聞えた。
「これは、ますます、ひどいな」そう云ったのは、側の湯河原《ゆがわら》中佐だった。
「敵の計画では、焼夷弾《しょういだん》と毒瓦斯弾《どくガスだん》とで一気に、帝都を撲滅《ぼくめつ》するつもりだったらしいですな。爆弾は、割に尠《すくな》い。弾痕《だんこん》と被害程度とを比較して、判ります」塩原参謀は、指先で、コツコツと窓硝子をつついた。
「なにしろ、帝都の市民は、今日になって、
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