の上に加えられた昨夜来《さくやらい》の、米国空軍の暴虐振りに対して、どうにも我慢ができなかったのだった。
 戒厳令下《かいげんれいか》に、銃剣を握って立つ、歩哨《ほしょう》たちも、横を向き、黙々として、声を発しなかった。彼等にも、生死のほどが判らない親や、兄弟や、妻子があったのだ。
 次第に晴れあがってくる空に、プロペラの音が聞えてきた。素破《すわ》こそと、見上げる市民の瞳に、機翼の長い偵察飛行機の姿がうつった。
「なんだ、陸軍機か」
 彼等は、噛んで吐き出すように、云った。この帝都の惨状を、振りかえっては、あまりにも無力だった帝都の空の護りへの落胆《らくたん》を、その飛行隊の機影に向って抛《な》げつけたのだった。
 だが、しかし、その偵察機の上にも、同じ悲憤《ひふん》に、唇を噛みしめる軍人たちが、強《し》いて冷静を装《よそお》って、方向舵《ほうこうだ》を操《あやつ》っていた。
「おい、浅川曹長《あさがわそうちょう》!」操縦士の耳へ、将校の太い声が、響いた。
「はい。何でありますか」曹長は、左手で、胸のところに釣ってある伝声管をとりあげると、やや湿《しめ》っぽい声で返事をした。
「機首
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