土《しょうど》と、崩れかかった壁と、どこの誰とも判らぬ屍体《したい》とが、到るところに見出された。その間に、彷徨《さまよ》う市民たちは、たった一晩のうちに、生色《せいしょく》を喪《うしな》い、どれを見ても、まるで墓石《はかいし》の下から出て来たような顔色をしていた。
 風が出てきて、余燼《よじん》がスーと横に長引くと、異臭《いしゅう》の籠った白い煙が、意地わるく避難民の行手を塞《ふさ》いで、その度に、彼等は、また毒瓦斯《どくガス》が来たのかと思って、狼狽《ろうばい》した。
 市街の、あちこちには、真黒の太い煙が、モクモクとあがり、いつ消えるとも判らぬ火災が辻から辻へと、燃え拡がっていた。
 射墜《うちおと》された敵機の周囲には、激しい怒《いかり》に燃えあがった市民が蝟集《いしゅう》して、プロペラを折り、機翼《きよく》を裂き、それにも慊《あきた》らず、機の下敷《したじき》になっている搭乗将校《とうじょうしょうこう》の死体を引張りだすと、ワッと喚《わめ》いて、打《う》ち懸《かか》った。「死屍《しし》を辱《はずか》しめず」という諺《ことわざ》を忘れたわけではなかったが、非戦闘員である彼等市民
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