、はたまた生か!
 それは兎《と》も角《かく》として、今、帝都の空は、漸《ようや》く薄明りがさして来た。もう一時間と経たないうちに、空襲によって風貌《ふうぼう》を一変した重病者「大東京《だいとうきょう》」のむごたらしい姿が、曝露《ばくろ》しようとしている。白光《はっこう》の下に、その惨状《さんじょう》を正視《せいし》し得る市民は、何人あることであろうか。


   暁《あかつき》の偵察《ていさつ》


 昭和十×年五月十五日の夜、帝都は、米国軍《べいこくぐん》のために、爆撃さる――
 と、日本国民は、建国二千六百年の、光輝《こうき》ある国史《こくし》の上に、これはまた決して書きたくはない文句を、血と涙と泥を捏《こ》ねあわせて、記《しる》さねばならなかった。
 かくて、カレンダーは、ポロリと一枚の日附を落とし、やがて、東の空が、だんだんと白みがかってきた。あまりにも悽惨《せいさん》なる暁だった。生き残った帝都市民にとって、それは残酷以外の何物でもない夜明けだった。
 一夜のうちに、さしも豪華を誇っていたモダーン銀座の高層建築物は、跡かたもなく姿を消し、そのあとには、赭茶《あかちゃ》けた焼
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