れもなく、別府《べっぷ》司令官であった。
ところが、別府司令官は、直前《ちょくぜん》まで、参謀長を、激しい語調で呶鳴《どな》っていた筈だった。おお、これはどうしたことだろう。参謀長の前には、たしかに、先刻から立っている別府司令官が居られるのだった。
二人の、別府司令官。
同じ服装の、同じ顔の、司令官。
どっちかが、贋者《にせもの》であろうと思われる。
二人の司令官の、相違した点は、湯河原中佐の案内した司令官は、軍帽の下から、頭部に捲いた、白い繃帯《ほうたい》が、チラリと見えている点だった。
「両手を、おあげ願いたい」
中佐は、室内の司令官の背後に、軍用拳銃の銃口を、さしつけた。
「売国奴《ばいこくど》!」中佐の傍《かたわら》にいた将校が、イヤというほど中佐の横面を張り仆《たお》した。
室内の司令官は、サッと身を、壁際に移した。
「中佐を、保護せい。向《むか》う奴は、射殺してよしッ」参謀長は、若い参謀に、早口で命令した。
三人の将校と、二人の下士官とが、室内の司令官を、守った。
若い参謀たちは、勇敢に、彼等に、飛びかかっていった。咄嗟《とっさ》の場合とて、ピストルよりも
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