に、立至った。
司令官の顔は、紙のように蒼ざめて、唇がワナワナと震えて来た。
参謀長は、満面《まんめん》朱《しゅ》を塗ったように怒張《どちょう》し、その爆発を、紙一枚手前で、堪えているようであった。
コツ、コツ。
扉《ドア》にノックの響があった。
室内の、息づまるような緊張が、爆発の直前に、ちょっと緩《ゆる》んだという形であった。
やがて、扉は、静かに開いた。
高級副官、湯河原《ゆがわら》中佐の円い顔が、あらわれた。この室内の光景を見ると、駭《おどろ》くかと思いの外、ニヤリと、薄ら笑いを、口辺に浮べたのだった。
中佐は、ツカツカと司令官の傍に近づいた。
「申上げます。唯今、御面会人で、ございます」
「面会人。誰だッ」
「はッ、唯今、御案内いたします」副官は、入口の方を向いて大声を張上げた。「閣下、どうか、おはいり下さい」
扉の蔭から、閣下と呼ばれた人物の、カーキ色の軍服が、チラリと見えた。ガチャリと佩剣《はいけん》が鳴って、一人の将校が、全身をヌッと現わした。
「呀ッ」
「おお!」人々は、呆然《ぼうぜん》と、其の場に、立竦《たちすく》んだ。
そこへ現われた人物は、紛
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