大東京区域図をバリバリ音させて、その上に、太い指を動かした。「淀橋《よどばし》区、四谷《よつや》区は、大半焼け尽しました。品川《しながわ》区、荏原《えばら》区は、目下《もっか》延焼中《えんしょうちゅう》であります。下町《したまち》方面は、むしろ、小康状態に入りました」
「放送局との連絡は、ついたろうか」
「無線連絡が、もう間もなく恢復するでありましょう」
「空中襲撃の解除警報を出す用意は、出来ているな」
「はいッ。すこし、困難はありますが、やれる見込みです」
「では、閣下に、お願いして見よう」
参謀長は、又立って、司令官の前に出た。
「閣下、解除警報を出したいと考えます」
「解除警報!」司令官は、大きく眼を開いた。「まだ早すぎる。確乎《かっこ》たる報告が集らぬではないか」
「閣下。例の怪放送者は、すでに先手を打って、敵機の退散をアナウンスして居ります。況《いわ》んや、唯今、川口町の報告によれば、敵軍は、明かに、機首を他へ向けています」
「君は、今の報告を盗み見たかッ」
「閣下、盗み見たとは、残念な仰《おお》せです。参謀長は、あらゆる報告に、一応目をとおす職責がございます」
「ウム」
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