空軍と覚《おぼ》しき約十数機よりなる飛行隊は、本町《ほんちょう》上空を一万メートルの高度をとって、午後九時五十分、北北西に向け飛行中なり。以上。川口町防空隊長、網島《あみじま》少尉」
 司令官は、紙片を、掌《てのひら》のうちに握り潰《つぶ》すとポイと屑籠《くずかご》の中に、投げ入れた。
「閣下」参謀長が、やや気色《けしき》ばんで、問いかけた。「唯今の報告は、なんでありましたか」
「出鱈目《でたらめ》じゃ」司令官は、吐き出すように云った。「それより君は、部下を、ちと静かにさせては、どうか」
「はッ」参謀長は、静かに挙手の礼をすると、元の卓子《テーブル》へ帰ってきた。
(閣下は、どうかして居られる)
 参謀長は、湯河原高級副官の姿を探しもとめたが、室内には見えなかった。
(副官までが、どうかしているナ)
 ムラムラと湧きあがってくる焦燥感《しょうそうかん》を、グッと抑《おさ》えつけ、傍《かたわら》を見ると、年若い参謀は、満面を朱《しゅ》にして、拳を握っていた。参謀長は、はッと気を取直した。
「草津参謀」彼は一人の参謀に呼びかけた。
「帝都の火災は、どういう状況にあるか」
「はいッ」参謀は、
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