蔭に言葉をかけた。
 カーテンが、揺れて、思いがけなく、司令部の、湯河原中佐が、顔を出した。
「塩原参謀」と中佐は、呼んだ。ルパシカ男は、いつの間にか局舎から姿を消していた塩原参謀の仮装だった。
「この男を、吾輩に預けてくれんか」
「おまかせいたします」参謀は、直立して言った。「ですが、中佐殿は、これから、どうされます」
「吾輩は、司令部の穴倉《あなぐら》へ、こいつを隠して置こうと思う。司令官に報告しないつもりじゃから、監禁《かんきん》の点は、君だけの胸に畳んで置いてくれ給え」
「しかし、斯《か》くの如き重大犯人を、司令官に報告しないことはどうでありましょうか」
「吾輩を信じて呉れ。二十四時間後には、この事件について、必ず君に報告するから」
「判りました。では、急速に、御引取下さい」中佐は、大きく肯《うなず》くと、鬼川の身体を肩に担いで、カーテンの蔭に、かくれてしまった。
 そのころ、放送局の表口では、暴徒の一団と、警備軍の救援隊とが、物凄い白兵戦《はくへいせん》を展開していた。
 全市に、点灯を命令して、米軍に帝都爆撃の目標を与えるという放送局襲撃の第一目標が、どういう手違いか、すっ
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