標は、これで充分だ。あとは、約束の賞金にありつく許《ばか》り。では、今のうちに、こっそり、失敬するとしよう。それにしても、米軍の攻撃は、莫迦《ばか》に、ゆっくりしているじゃないか」
彼は、裏口へ遁《に》げようとしては、不審の面持《おももち》で耳を澄した。だが、彼の予期するような爆弾投下の爆音は、一向に、響いてこなかった。
「おかしいぞ。どうしたのだろう」
そのとき、囂然《ごうぜん》たる爆声が起った。一発又一発。それに交って、カタカタという機関銃の響きだった。
「やったナ。だが、爆弾と、すこし音が違うようだ」
彼は、逃げ腰になった。
「鬼川君は、いないですか、鬼川君」
誰かが、向うの放送室で呼んでいる。返事をしようか、どうしようか。
「……」
「鬼川君、軍隊だッ。救援隊らしいのが、山を登って来ますぞ。早く指揮をして下さい。鬼川くーン」
鬼川は、物も言わずに、裏口へ急いだ。
「やッ」
カーテンの蔭から、太い逞《たくま》しい腕がニューッと出た。鬼川は横腹をおさえて、もろくも、転倒した。
カーテンの蔭から、ルパシカ姿の巨漢が現れた。
「中佐どの、片附けました」
彼は、カーテンの
前へ
次へ
全224ページ中114ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング