だんだんと、帝都を後にして、引揚げてゆく模様であります。以上」
 強制団員の中には、この真面《まとも》な放送に、大満足の意を表したものさえあった。だが、敵機は、本当に、帝都の上空から、引揚げていったのだろうか?
「次に、某筋からの命令が参りましたから、お伝えします。東京地方は、警戒解除を命ず。東京警備司令官、別府九州造《べっぷくすぞう》。繰り返して読みます、エエと――」
 素六は、窓際に立っていたので、不用意に開け放たれた窓から、帝都の空を眺めることが出来た。その真暗な空には、今も尚《なお》、照空灯が、青白い光芒を、縦横無尽に、うちふっていた。高射砲の砲声さえ、別に衰《おとろ》えたとは思われなかった。なんだか、怪しい放送である。
「次に、灯火を、早くお点け下さいという命令。目下帝都内は暗黒のために、大混乱にありまして、非常に危険でございますので、敵機空襲も片づきましたることでありますからして、市民諸君は、大至急に電――」
「騙《だま》されてはいけない、市民諸君、これは偽放送《にせほうそう》だッ」
 大きな声で、保狸口のアナウンスを圧倒した者があった。
 ズドーン。
 銃声一発。
 ドタ
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