出した。
「ほんとにね」お妻が同意して云った。「あなた、この頃、ちと晩酌《ばんしゃく》が過ぎますよ」
「莫迦《ばか》ッ。折角《せっかく》の訓辞《くんじ》が、効目《ききめ》なしに、なっちまったじゃないか!」口のところへ持ってゆきかけた盃《さかずき》を途中で停めて、長造は破顔《はがん》した。
「はッはッは」
「ふ、ふ、ふ」
「ほッほッほ」
それに釣りこまれて、一座は花畑《はなばたけ》のように笑いころげた。
どよめきが、やっと鎮《しず》まりかけたとき、
「それにしても、弦三は大変遅いじゃないか。昨夜は、まだ早かった。この間のように、十二時過ぎて帰ってくる心算《つもり》なんじゃ無いかなあ」と、長造が云った。
「お母ア様《さん》、工場《こうば》へ電話をかけたらどうです」黄一郎が云った。
「それもそうだが、弦の居るところは、夜分《やぶん》は電話がきかないらしいんだよ」
「なーに、彼奴《あいつ》清二の二の舞いをやりかかってるんだよ。うちの子供は、不良性を帯びるか、さもなければ、皆気が弱い」
父親はウッカリ、平常思っていることを、曝《さら》け出《だ》したのだった。今日は云うのじゃなかった、と気の
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