、涙をもって止めたが、それは何の役にも立たなかった。馴染《なじみ》の誰々さんも入っている――たったそれだけのことで、若い人達の参加を決心させるに充分だった。「放送局を襲撃しろッ」
 ハッキリと、加盟団の指令が出たときには若い人達は、やっと気がついた。だが、それは、もう遅かった。幹部の手には、物々しい武器が握られていた。反抗したが最後、その兇器が物を云うことは、いくら若い連中にもよく解った。
 紅子と素六とは、恐怖と反省とに責められながら、放送室の一隅に、突立っていた。
 放送局襲撃隊の指導者は、鬼川壮太《おにかわそうた》といった。
「放送準備は、まだ出来ないのかネ」鬼川は団員の一人に訊いた。
「もう直ぐです」団員は答えた。「いま、水冷管《すいれいかん》に冷却水を送り始めました」
「電気は、来ているのですか」
「猪苗代水電《いなわしろすいでん》の送電系統は、すっかり同志の手に保持されています。万事オーケーです」
 指導者鬼川は、満足そうに肯《うなず》いた。
「放送準備が出来ましたよ」
 奥の方から、これも電気係りの団員が、大声で報せて来た。
「よおし。では、始めよう」
 鬼川は、チラリと
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