ぎるという、極くつまらない理窟《りくつ》をもって、群衆の袋叩《ふくろだた》きに合ったのだった。暴徒の一味は、群衆が、興奮した様子につけこんで、今度は、切符売場を襲撃したのだった。金庫は、みるみる破壊され、銀貨や紙幣が、バラバラと撒き散された。群衆は恐さも忘れて、慾心《よくしん》まるだしに、金庫を目懸けて突進した。五十銭銀貨を一枚でも、掌《てのひら》の中につかんだものは、強奪の快感の捕虜となって、ますます興奮を、つのらせて行った。五円紙幣を手に入れたものは、顔までが、悪魔の弟子のようになった。獣心《じゅうしん》が、檻を破り、ムラムラと、飛びだした。一味の者は、細心の注意をもって、機会を見ては、巧みに、煽動した。居合わせた婦女子は、駭《おどろ》きのあまりに、失心《しっしん》する者が多かった。正義人道を口にするものが、四五人もいて頑張れば、群衆の冷静さを、幾分とりもどせたろうと思われたが、誰もが呆然自失《ぼうぜんじしつ》していて、適当な処置を誤《あやま》ったのだった。一味の計画は、すっかり、図に当った。
「××人が、本当に暴れだしたぞォ」
「東京市民は、愚図愚図《ぐずぐず》していると、毒瓦斯
前へ 次へ
全224ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング