てよう筈がなかった。軍人たちは、赤色灯《せきしょくとう》点《とも》る局舎のあちらこちらに、射斃《いたお》され、非戦闘員である機械係りや、アナウンサーは、不抵抗《ふていこう》を表明した。こうして、JOAKは、不可解な一隊に、占領されてしまったのだった。
 しかし、どうしたものか、局舎のうちには、塩原参謀と、杉内アナウンサーの姿が見当らなかった。死骸の中にも、無論のこと、二人を探しあてることは、出来なかった。
「さあ、皆さん」陸軍の将校の服装をした男が、案外やさしい声で、第一演奏室の真中に立って叫んだ。「放送局の衆は、こっちへ並んで下さい。同志は、あっちの方へ固まって下さい」
 彼は、軍帽を、床の上に抛《な》げ捨てた。房々《ふさふさ》した頭髪が、軍人らしくもなく、ダラリと額にぶら下った。それから彼は、胸の金釦《きんボタン》を一つ一つ外していって、上衣をスッポリ脱ぎすてた。軍服の下に現われたものは、焦茶色《こげちゃいろ》のルパシカだった。
「放送局の方々《かたがた》よ」彼は団長らしい落付を見せて、だが[#「だが」に傍点]鋭く、呼びかけた。「われわれは、戦争否定主義の者です。戦争は、即時やめさ
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