えないので、どうしたのかと思っていた」
「あッはッはッ。姉さんが中央電話局から帰って来ないので、心配だから行ってみたんだよ」
「どうだったい……無事だったかい」
「ウン。無事だった。五十人の交換手が、みんな死ぬ覚悟で交換台を守っていたよ。警報の連絡に大手柄をたてたんだとさ。姉さんなんか、大した元気だった」
旗男は一瞬間、直江津の姉たちの安危を思った。焼崩れる家の下敷になったような気がするが、助ったろうか、それとも……。いや、今はそんなことを考えている時ではない! 眼前に、大変な流言を吐いている国賊がいるのだ!
「ねえ兼ちゃん。向こうで皆を集めてしゃべっている背広男がいるだろう。あいつけしからん流言をはなっているのだよ」
「どれどれ、あッ、あいつだ。あいつはスパイだよ。さっき丸の内でも、暴徒が品川の方から数万人も押しよせてくるから逃げろといっていた。防護団の人達が捕らえようとすると逃げだした。あいつはお尋者《たずねもの》なんだ」
「そうか。そんなひどい奴か。ラジオや電話が切れたと思って、市民の心を乱してゆこうというのだな。よォし、じゃあ兼ちゃんと二人して、あの悪漢を捕らえてやろうじゃな
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