ともなかった。ラジオも電話も不通では、この騒《さわぎ》はさらに大きく広がってゆくだろう。だが、旗男は、見なれない背広男の言を、どうしても信ずることが出来なかった。――数万人の暴徒が防護団員を殺しにくるなんて、そんなバカバカしいことがあるものか。
「そうだッ……」
 旗男はふと気がついた。
 送電が停っても、ちゃんと働く電池式受信機をもっていたことを思い出したのだ。放送局の非常用発電ガソリンエンジンも停っていればしかたがないが、もしエンジンが働いていて放送をやっているとしたら、旗男の受信機には入ってくる筈《はず》だった。――彼は、たちさわぐ団員のところを少し離れて、肩にかけた受信機を開き、受話器を耳にあてて、ダイヤルを廻した。とたんに旗男の顔が林檎《りんご》のように輝いた。
「おお、放送をやっている。うん聞えるぞ!」
 旗男は地獄で仏に会うの思《おもい》だった。前もって電池式受信機を作っておいてよかった。非常時には、ぜひともこれがいる! 受話器から出てくる声は小さいが、まぎれもなく、なじみ深い中内アナウンサーの声……。
「……以上申し上げましたようなわけで、S国空軍の三機もわが勇猛果敢な
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