同然だ」
「するとサイレンも鳴らないんだな」
「これはいかん……」
 団員一同は、離小島に残されたような心細さを感じた。
 そのとき一台の自動車がやって来て、中から見なれない背広服の男がおりて来た。そして天幕の方へツカツカと寄ってくるなり、
「……皆さん、大変ですよ。いま暴動が起っている。下谷《したや》、浅草《あさくさ》、本所、深川、城東、向島、江戸川などの方から数万の暴徒が隊を組んでやって来る。帝都を守れなかった防護団員を皆殺しにするのだといっている。早く逃げないと、皆さんは殺されちまいますよ……」
「えッ!」
 団員はハッと驚いて、互に顔を見合わせた。そんなことが起っているのか? 俺たちはこんなに闘ったのに、それだのに殺されなければならぬのか。これを聞いて泣きだした少年もあった。
「流言だよ。そんなはずはない!」
 と旗男は叫んだ。
「いや、本当かも知れない!」
 図体《ずうたい》の大きいわりに、気の弱いパン屋のおやじさんが、半分かじったパンを手にもったまま、泣きだしそうな声をだした。
「どうすればいいんだ?」
 鍛冶屋の大将も、これには途方に暮れてしまった。同士討なんて、考えたこ
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