ようがなく、アレヨアレヨと、死人のふえるのを見ていなくてはならなかった。
 まったく恐ろしいのは共同の精神をうしなった群衆だった。


   敵機は去ったが


「ウム、また次のやつが来るかも知れない。六十三機というのが、さっきは三機だけだったからな。まだ油断はならんぞ!」
 防護団といわず、女子供といわず、みな不安にみちた眼をあげて空を仰いでいる。
「ラジオはどうしたッ」
 鍛冶屋の大将がどなった。少年団の一人が天幕《テント》の中へかけこんだ。……が、すぐ真青になって、天幕からとびだしてきた。
「班長、駄目です!」
「駄目? なにが駄目だッ」
 団員はハッとして、少年の方を見た。
「……ラジオが鳴らないんです」
「鳴らない! 壊れたのかな」
「班長!」
 と旗男がいった。
「これは、きっと送電線が爆弾にやられて、ラジオが駄目になったのですよ」
「ラジオが駄目になったとは困った」
 といって天幕の中に入っていったが、気がついて電話をかけてみた。大将の顔が、また暗くなった。
「どうしたの」
「いや、電話も駄目だ。電線はみなやられたらしい……さあ大変、これじゃ大事な耳も眼も利かなくなったも
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