けようとつとめた。
地上の地獄
ウウウーと、物凄い唸声《うなりごえ》をあげて、真赤な消防自動車が、砲弾のように坂を駈け上っていった。麻布《あざぶ》の方に、烈々たる火の手が見える。防毒面をつけた運転手は、防毒面の下で半泣《はんなき》になっていた。それは爆弾がこわいわけではなかった。早く火元へ駈けつけたくても、あわて騒ぐ市民がウロウロ道に出てくるので、あぶなくて思うように運転が出来ないからだった。あッ、また向こうの横町から洋装の女がとびだしてきた。
「あぶない!」
運転手はわめいた。サイレンは、さらに猛烈に咆《ほ》えたって、女の前をすれすれに駈けぬけた。
燃えやすい帝都に、一箇所でも火災をだすことは、この際一番おそろしい。ぜひとも早く消しとめなければならないと、消防隊は一生懸命なのだった。
火事はお邸町《やしきまち》だった。
消防隊員はバラバラととびおりて、直ちにホースを伸ばしていった。物凄い火勢だ。どうして焼夷弾を消さなかったんだろう。
「……実にけしからん」
と小頭《こがしら》が頭をふって怒りだした。
「この辺の邸は、どこも逃げてしまって、なかには犬っころがい
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