、にわかに元気をとりもどし始めた。
「おお、旗男君。さすがに、やるなァ!」
と鍛冶屋の大将は頭をふった。そして腹の底から声をふりしぼって叫んだ。
「そォらッ! 今あわてちゃいかん。がんばれがんばれ。あと十分間の我慢だ!」
火災は幸《さいわ》いにして、日頃の訓練が物をいって大事に至らずにすんだ。
「……瓦斯《ガス》だッ、瓦斯、瓦斯!」
坂上から、伝令の少年が自転車に乗って駈けくだってきた。
「ホスゲンだ、ホスゲンだ。……防毒面を忘れるな」
「毒瓦斯が流れだしたぞう……」
恐怖の的の毒瓦斯弾が、落ちたらしい。それっというので、防護団の諸員はお揃《そろい》の防毒面をかぶった。警報班員は一人一人、石油缶を肩からつって、ガンガン叩いて駈けだす。
「瓦斯は坂の上の方から下りてくるぞ。防毒面のない人はグルッとまわって風上へ避けろ。なるべく高い所がいいぞ。そこを、右へ曲って池田山《いけだやま》へ避難するんだ!」
旗男は後に踏みとどまって、坂上から徐々に押しよせてくる淡緑色の瓦斯を睨みながら、さかんに手をふった。彼は、勇敢にも時々防毒面と頭との間に指ですき間をつくり、瓦斯の臭《におい》をかぎわ
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