手も……」
 驚きのあまり、中尉のうしろに呆然《ぼうぜん》と立っていた露子が、このとき始めて口をひらいた。
「ナニ、血? 大丈夫だ。おれには怪我《けが》はない」
 中尉は元気な声で答えた。
「あなた、いま水を汲《く》みますから、水でお洗いになっては……」
 と、露子が井戸の方によろうとすると、
「待て、露子……。しばらく井戸に触《さわ》ってはならん」
「えッ」
「皆さんも、井戸には触らないでください。その前に、この死んだ男の身体を調べたいのだが……、誰か警官を呼んできて下さい」
 国彦中尉は、なぜか井戸をたいへん気にしていた。そこへ剣をガチャつかせて、二人の警官が息せき切って駈《か》けつけてきた。
「さあ、どいたどいた」
 国彦中尉は警官を迎えると、なにか耳うちをした。警官は顔を見合わせて大きくうなずくと、人々を遠くへどかせた上、中尉と三人きりになって、井戸の横に倒れているきたない服装をした男の持物を、懐中電灯の明りで調べだした。人々は遠くから固唾《かたず》をのんでひかえていた。
 と、突然、
「……ああ、あった。これだッ」
 国彦中尉が叫んだ。そして懐中電灯の光でてらしだしたのは、死
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