うおう》にふりまわした。
「しまった!」
 と叫んで、怪漢はその場にたおれた。旗竿が向脛《むこうずね》にあたったものらしい。
「ウヌ、この奴……」
 と、国彦中尉が飛びこんでいって怪漢の上に折重なろうとしたとき、
 ダーン……
 と一発、凄い銃声がひびいた。その銃声の下に、ウームと苦悶《くもん》する人の声。――旗男はハッとその場に立ちすくんだ。


   伝染病菌の容器


 まだ暮れたばかりの夏の宵《よい》のことだった。不意に起った銃声に、近所の人々は、夕食の箸《はし》を放《ほう》りだして、井戸端のところへ集ってきた。
「どうしたんです。強盗ですか」
「あッ、こんなところに、人間がたおれている。誰が殺したんだ」
 と、たち騒ぐ人々の声。
「みなさん。静かにして下さい。こいつは僕を撃とうとして、僕に腕をおさえられ、自分で自分を撃ってしまったんです」
 国彦中尉はすこしもあわてた様子もなく、人々に話をして聞かせた。
「こいつは、一体何者なんです?」
「ピストルを持っているなんておかしいね」
 人々はおそるおそる死体のまわりをとりまいた。
「……ああ、あなた。血だらけよ。浴衣も……それから
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