人の腹にまいてある幅の広い帯革《おびかわ》であった。それには猟銃の薬莢《やっきょう》を並べたように、たくさんのポケットがついていた。しかし中尉がそのポケットから取りだしたものは、猟銃の薬莢ではなく、注射液を入れたような小さい茶色の硝子筒《ガラスとう》だった。それには小さいレッテルが貼《は》ってあり、赤インキで何か外国語がしたためてあった。
「ほう、コレラ菌ですよ……」
 国彦中尉は、警官の鼻の先に、その茶色の硝子筒をさしつけなが[#「さしつけなが」はママ]いった。
「ええッ、コレラ菌!」
 警官の顔は見る見るまっさおになっていった。
「そうです。この死んだ男は、敵国のスパイに違いありません。この直江津の町におそるべきコレラを流行させるために、これを持ちまわって井戸の中に投げこんでいたのです」
「ああ、するとコレラ菌を知らないで飲んでしまった人もあるわけだ。さあ大変……」
 警官は驚きのあまりよろよろとした。
「まあ、しっかりして下さい。今からでも、まだ遅くはない。すぐ手を廻《まわ》して、町の人々に生水を飲むなと知らせるのですね」
「どうして知らせたらいいでしょう。こんなことがあるのだっ
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