として、町にとびだしてゆくところだった。そのとき旗男は大事な持物を忘れなかった。右肩には防毒面の入ったズックの鞄《かばん》を、また左肩には乾電池で働く携帯用のラジオ受信機を、しっかり身体につけて出た。
「うわーッ、あれあれ。爆弾だ、爆弾だ」
「あわてるなあわてるな。落ちるところを注意していろ!」
 鍛冶屋の大将は大童《おおわらわ》で防護団を指揮していた。
 町々からは恐怖の悲鳴がまいあがる。
 ガラガラガラガラ!
 ドドーン、ドドーン!
 破甲弾よりは、ややひくめながら叩きつけるような大音響とともに、パーッとたちのぼる火炎《かえん》の幕!
 うわーッという凄惨《せいさん》な人間の叫び!
 町まで出てきた旗男は実をいうと、気が違いそうであった。しかしここで気が違っては日本男子ではないと思って、一生懸命、自分の手で自分の頭をなぐりつけた。ゴツーン、という音とともに感ずるズズーンという痛み、そこでハッと気がついた。
「あッ、焼夷弾が……」
 向こうの屋根に小型の爆弾が落ちたと思うと、パッと眼もくらむような光が見えた。
「こっちだ、こっちだ」
「おお」
 鍛冶屋の大将が声を聞きつけとんできた。
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