がそう。ねらいすました弾丸は、容赦もなく敵機に噛《か》みついていった。
 翼をくだかれて舞いおちるもの。
 火災を起して、大爆音とともに裂けちるもの。
 傷ついてふらふらと不時着するもの。
 数十分前に、意気高く「東京撃滅!」を叫んだあの六十三機の大空軍は、今その姿を失おうとしている。
 だが、安心するのはまだ早い。東京湾上の雲にひそんだ一機、二機、三機――が死物ぐるいに帝都の空へ迫っているではないか。


   爆撃下の帝都


 魔鳥のような敵機の姿はついに品川沖に現れた。海岸の高射砲は一せいに火蓋《ひぶた》をきった。その煙の間を縫うようにして、見る見る敵機は市街の上……。
 けたたましい高射機関銃の響が八方に起こった。
 敵機の翼の下から、蟻《あり》の卵のようなものがパッととびだした。その下は、ああ、旗男たちの住む五反田の町!
「あッ、爆弾投下だッ。うわーッ、この真上だぞう……」
 この爆弾の雨をみた旗男は、高台を駈けおりながら、大声で叫んだ。――彼は空襲の知らせを聞くと、病める両親をはじめ家族たちをすぐ防毒室の中に入れ、あとのことをお手伝いさんと竹男に頼むと、自分は少年団の一人
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