たような声が、ふと、旗男の耳にひびいた。
「……アノ奥さま。いま変な男が、井戸のところをウロウロしているのでございますよ。……故紙業のような男で……」
「アラそう?」
「いえ奥さま。それが変なんでございますよ。ジロジロと井戸の方を睨んでいるのでございますよ。……ああ、わかりましたわ。あのひと、井戸の中の西瓜を狙《ねら》っているのでございますわ。西瓜泥棒……」
「これ、静かにおし……」
西瓜泥棒と聞いて、旗男はソッと硝子戸《ガラスど》のすきまから外を覗《のぞ》いてみた。なるほど、いるいる。暗いのでよくは分からないが、頬被《ほおかぶり》をした上に帽子をかぶり、背中にはバナナの空籠《あきかご》を背負っている男が、ソロソロ井戸端に近づいてゆく。……
――怪《け》しからん奴《やつ》だ。……しかし、西瓜ならもう家の中に取りこんであるからお生憎《あいにく》さまだ。ハハンのフフンだ。――
と、旗男はなおも眼をはなさないでいると、かの男は、見られているとも知らず、井戸の上に身体をもたせかけると、右手をつとのばして何か井戸の中へ投げいれた様子、カチンと硝子が割れるような音が聞えた。一体何を入れたんだ
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